年次有給休暇取得時の賃金計算方法と注意点を解説
年次有給休暇を取得した日・期間については、就業規則等の定めにより、「所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金」、「平均賃金」又は健康保険法上の「標準報酬日額相当額」のいずれかを支払う必要があります。
上記3つの中から計算方法を選択した場合は、必ずその選択した方法で支給する必要があります。
今回の記事では有給休暇取得時の具体的な計算方法や注意点を解説します。
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①所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金を支払う場合
所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金を支払う場合の計算方法は、労働基準法施行規則第25条に定められています。
時給制、日給制、週給制または月給制などの給与形態により計算方法が異なり、いずれも1日当たりの金額を算出する必要があります。
給与形態ごとの計算方法は次の通りになります。
(1)時給制の場合:時給の額×所定労働時間
(2)日給制の場合:日給の額
(3)週給制の場合:週給の額÷有給を取得した週の所定労働日数
(4)月給制の場合:月給の額÷有給を取得した月の所定労働日数
(5)月、週以外の一定の期間で賃金が定められている場合:(1)~(4)に準じて計算
(6)出来高払制・その他の請負制の場合:その賃金算定期間において出来高払制・その他の請負制によって計算された賃金の総額÷当該算定期間における総労働時間数×1日の平均所定労働時間数
(7)給与が(1)~(6)の二以上の賃金よりなる場合:(1)~(6)の方法でそれぞれ算定した金額の合計額
例えば、基本給等の他に手当として歩合給を支給しているケースでは、
・1日の所定労働時間数8時間
・歩合給12万円
・その月の所定内労働時間160時間、残業時間40時間
上記の条件の従業員の場合、1日当たりの有休休暇取得相当額は、基本給等から求めた通常の賃金に以下の計算で求めた4,800円を加算した額となります。
120,000円÷(160時間+40時間)×8時間=4,800円
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②平均賃金を支払う場合
平均賃金の計算式は次の通りになります。
平均賃金A=直近の賃金締め日からの3ヶ月間に当該従業員に支払われた賃金の総額÷直近3ヶ月間の総日数
上記の計算方法では、分母の直近の賃金締め日からの3ヶ月間の総日数として、休日を含む暦日の日数で算出するため、「①通常の賃金を支払う場合」の計算方法に比べて、一日当たりの給与額は低い額となります。
もし有給休暇を取得した従業員の直近の賃金締め日からの3ヶ月間の勤務日数が極端に少ない場合には、次の方法での計算も行い、上記の計算式と比べて高い方の金額を採用します。
平均賃金B=直近の賃金締め日からの3ヶ月間で当該従業員に支払われた賃金の総額÷その期間中の労働日数×60%
例えば、直近の賃金締め日からの3ヶ月間(1月1日~3月31日、暦日換算90日)で当該従業員に支払われた賃金の総額が45万円で、その期間の労働日数が45日間の場合、以下のような計算になります。
上記の平均賃金Aの通り計算すると以下の通りになります。
450,000円÷90日=5,000円
一方、上記の平均賃金Bの通り計算すると以下の通りになります。
450,000円÷45日×60%=6,000円
この場合、有給休暇1日当たりの給与計算額は金額が高くなる6,000円を採用する必要があります。
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③健康保険法上の標準報酬日額相当額を支払う場合
健康保険法上の標準報酬日額相当額を支払う場合の計算方法は次の通りになります。
標準報酬日額=標準報酬月額÷30
標準報酬月額は、健康保険料の算出に使用されるもので、月の給与等の報酬を50等級に区分された等級表にあてはめたものです。
保険料率については、加入する健康保険や都道府県ごとに異なります。
また、社会保険適用していないパートタイマーの従業員については、就業規則等の規定に基づいて、所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金か平均賃金で計算することとなります。
標準報酬日額相当額を支払う場合の注意点として、各等級のそれぞれの範囲(例:20等級=25万円以上~27万円未満)の中で下限に近い場合等については、通常の賃金による計算方法と比べて給与が低く計算されてしまう可能性があります。
そのため、この計算方法を採用するためには労働者側との労使協定を結ぶ必要があります。
標準報酬月額がわかっていれば計算できるため、計算の手間がかからない点はメリットですが、実務上採用されているケースはほとんどありません。
年次有給休暇取得時の賃金計算における注意点
所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金を支払う場合の注意点として、出来高払制・その他の請負制の計算について、計算方法が月給制や日給制等と比べて異なっているため、注意が必要です。
平均賃金で支払う場合には、平均賃金を算出するために直近三か月の給与額や出勤日数を集計する必要がある他、期間中の総日数で計算する方法と労働日数で計算する方法とを比較してどちらが高くなるか確認する必要もあります。
そのため給与計算が煩雑になり、担当者の負担が増加することとなるため注意が必要です。
まとめ
今回は、有給休暇取得時の具体的な計算方法や注意点について解説しました。
まず自社で採用されている基本的な計算方法を押さえ、就業規則の内容も確認した上で正しく給与計算を進めましょう。
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