フレックスタイム制
昨今の状況からリモート勤務が増えたことにより、フレックスタイム制の導入を検討している会社が多く見受けられます。令和4年10月31日に発行された労働新聞にてフレックスタイム制を導入した場合の精算期間の繰越についてのQ&Aが掲載されていました。フレックスタイム制は、時間外労働の考え方が一般的な計算とは異なる為注意が必要です。
まずは労働新聞に掲載されていた内容を確認してみましょう。
Q 精算期間を1ヶ月とするフレックスタイム制を導入しようと協議を進めています。ある精算期間における総労働時間と実労働時間との過不足を、次の精算期間へ繰り越して調整することは可能でしょうか。その際、どの部分から割増賃金が発生する法定外労働と扱われるのでしょうか。
A フレックス制は、労働者に始業・終業時刻の決定を委ねます(労基法32条の3)。精算期間における総労働時間と実労働時間に過不足が生じた場合は以下の取り扱いとなります。
超過分は、基本、繰り越せないといえます。とくに法定外労働時間は、労基法37条の割増賃金の支払いのため、精算が必要です。
不足のときは、控除して賃金を支払う方法のほか、総労働時間に相当する賃金を先に支払っておき、未達分を次の精算期間で総労働時間に上乗せして調整する場合、法定労働時間の総枠の範囲内である限り、繰り越す方法も適法です。(昭63.1.1基発1号)。不足分を前払いし次の期間に過払い精算するもので、法24条の全額払いの原則にも違反しないとしています。
割増賃金は実労働時間を基準に考えます。月の精算期間において総労働時間+繰越し分の
時間内でも、法定時間の枠を超えた部分は、割増賃金が発生します。
上記回答のように、フレックスタイム制は精算期間というものがあり、その精算期間を単位として時間外労働を判断することになります。
フレックスタイム制が導入された当初精算期間は1ヶ月と定められていましたが、2019年の法改正に伴い、精算期間が3ヶ月まで可能となりました。3ヶ月というのは上限になるため、従来通り1ヶ月と設定することも、2ヶ月と設定することも可能です。
ここで大事なのは、設定する精算期間によって時間外労働の計算方法が異なるというところです。
それでは、精算期間を1ヶ月とした場合と精算期間を3ヶ月とした場合の違いを確認してみましょう。
◆精算期間を1ヶ月とした場合
精算期間を1ヶ月に設定した場合は、精算期間内における実際の労働時間が法定労働時間の総枠内であれば問題ありません。
精算期間が1ヶ月の場合の法定労働時間の総枠は以下の通りです。
※()内の時間は、特例措置対象事業場の場合
精算期間内の暦日 |
法定労働時間の総枠 |
31日 |
177.1時間(194.8時間) |
30日 |
171.4時間(188.5時間) |
29日 |
165.7時間(182.2時間) |
28日 |
160.0時間(176時間) |
つまり、この法定労働時間の総枠を超えた時間数が時間外労働となります。
1日8時間・週40時間という法定労働時間を超えて労働しても、ただちに時間外労働とはなりません。逆に、1日の標準の労働時間に達しない時間も欠勤や早退となるわけではありません。
例)暦日31日の月
①実労働時間が200時間となった場合、
200時間-177.1時間=22.9時間
この22.9時間分が時間外労働となり、割増賃金を支払う必要があります。
ただし、休日労働(法定休日に労働)を行った場合には、休日労働の時間が、精算期間における総労働時間や時間外労働とは別のものとして取り扱われ、35%以上の割増賃金の支払いが必要となります。
②休日労働を8時間した場合、
8時間分⇒35%の割増賃金
200時間-8時間-177.1時間=14.9時間⇒時間外労働
逆に、1ヶ月の実労働時間が法定労働時間に満たない場合には、不足分を欠勤扱いとし控除する必要があります。
◆精算期間を3ヶ月とした場合
精算期間が3ヶ月の場合の法定労働時間の総枠は以下の通りです。
※精算期間が1ヶ月を超える場合には、特例措置対象事業場であっても、週平均40時間を超えて労働させる場合には、36協定の締結・届出と、割増賃金の支払いが必要です。
精算期間内の暦日 |
法定労働時間の総枠 |
92日 |
525.7時間 |
91日 |
520.0時間 |
90日 |
514.2時間 |
89日 |
508.5時間 |
精算期間が1ヶ月を超える場合には、「1ヶ月ごとの労働時間が週平均50時間を超えないこと」と定められております。
そのため、まず各月ごとに、週平均50時間となる月間の労働時間数を計算して、フレックスタイム制の枠組みを把握します。
例)精算期間:8/1~10/31
実労働時間:8月225時間 9月160時間 10月180時間 合計565時間
①法定労働時間の総枠を計算する。
⇒歴日数が92日となるため、法定労働時間の総枠525.7時間
②1ヶ月ごとに、各月の週平均労働時間が50時間となる月間の労働時間数を計算する。
(式:50時間×各月の歴日数/7日)
⇒8月221.4時間 9月214.2時間 10月221.4時間
③各月ごとに、週平均50時間を超えた時間を時間外労働としてカウントする。
⇒8月 3.6時間 9月 0時間 10月0時間
今回は8月について週平均50時間を超える時間が発生しているので、時間外労働としてカウントし、8月の賃金支払い時に割増賃金として支払います。
④精算期間終了後に、法定労働時間の総枠を超えて労働した時間を時間外労働としてカウントする。
この際、③で時間外労働としてカウントした時間は除いて計算をします。
565時間-3.6時間-525.7時間=35.7時間
この35.7時間を10月の賃金支払い時に割増賃金として支払います。
このように精算期間が1ヶ月を超えるフレックスタイム制の場合は、時間外労働の計算が2段階に分かれます。まずは各月ごとに週平均50時間を超えていないかどうか、そして最終月には週平均50時間を超えていないかどうかとさらに精算期間における法定労働時間の総枠を超えていないかどうかを確認する必要があります。
フレックスタイム制をこれから導入しようと検討している会社様、今現在すでに導入をしている会社様、今一度時間外労働の計算がきちんとできているか確認をしてみましょう。
また、週休2日制の会社におけるフレックスタイム制の場合、1日8時間の労働であっても、曜日の巡りによって、精算期間における総労働時間が、法定労働時間の総枠を超えてしまう場合があります。
この場合においては、労使協定をすることにより、「精算期間内の所定労働日数×8時間」として法定労働時間を定めることが可能となっています。来年4月以降は、中小企業においても月60時間以上の残業は50%の割増で支払う必要がでてきます。
このように、時間外計算ひとつをとっても様々なルールがあるため正確に給与計算をすることがどれほど難しいか私たちも身をもって感じております。そのため、日々勉強をしながら知識を蓄えております。
何かお困りごとがあれば、是非Aimペイロールエージェンシーへお問合せください。
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