固定残業代を導入するメリット・デメリットと計算方法
今回の記事では、みなし残業代とも呼ばれる「固定残業代」について紹介します。
固定残業代とは
固定残業代とは、一定時間分の時間外労働、休日労働、及び深夜労働に対して定額で支払われる割増賃金のことです。
これを採用するには、最低限として次の条件をクリアする必要があります。
・基本給等の中に残業代が含まれていることが明示されていること
・通常の労働時間に相当する部分と残業代に相当する部分が判別できること
・超過分の残業代について適切に精算すること
さらに、固定残業代を賃金に含める場合には以下の3点を適切に明示する必要があります。
・固定残業代を除いた基本給の額
・固定残業代の対象となる時間数と金額の計算方法
・固定残業代を超える部分については、別途割増賃金を支払う旨
※判例:テックジャパン事件参照
固定残業時間を実際に労働させた時間数が上回った場合、差額の時間数に対して追加で支払わなければなりません。
例えば、固定残業代を毎月 20 時間分支払う規定の会社において、25 時間の時間外労働を行った労働者がいる場合、この労働者に対しては、20 時間分の固定残業代の他に 5 時間分の時間外労働に対する割増賃金を加算して支払う必要があります。
固定残業代については、上記の例において20時間分の残業があったとみなして支払うことから、固定残業代は「みなし残業代」とも言われます。
固定残業代を導入する会社のメリットとデメリット
ここからは固定残業代の導入による会社にとってのメリットとデメリットについて紹介します。
固定残業代を導入する会社のメリット
メリット①人件費の把握が容易になる
メリット②無駄な時間外労働の抑制につながる
メリット①人件費の把握が容易になる
固定残業代制度を導入することにより、毎月の残業代の目安がわかるため、人件費の把握が容易になります。
さらに、実際の労働時間が固定残業時間内であれば残業代を一律に計算できるため、給与計算を効率化することができるでしょう。
ただし、固定残業代制度は残業代を完全に定額にできるわけではないため、毎月の労働時間の把握は必要です。
メリット②無駄な時間外労働の抑制につながる
固定残業代制度を導入しない場合、残業をすればするだけ残業代が支給されることから、仕事の効率が悪い従業員に対して、より多くの残業代を支給することとなります。
この点において、固定残業代制度を導入した場合、固定残業時間数の範囲内であれば、仕事を早く終えるほど時間単価が上昇させることに繋がるため、社員のモチベーションアップにつながり、会社全体としても業務効率化を促進できる可能性があります。
固定残業代制度を採用するデメリット
デメリット①基本給が低く見える
デメリット②求人でトラブルになりやすい
デメリット①基本給が低く見える
固定残業代制度を導入することで、基本給が低く見えてしまうため、求人募集の際に人材が集まりにくくなってしまうというデメリットがあります。
デメリット②求人でトラブルになりやすい
ハローワークにおける固定残業代制度に関するトラブルとして、固定残業代制度を導入している会社の「基本給+固定残業代」を、求職者が「基本給」と誤解してしまうケースがあります。
この場合、求職者が求人条件と採用条件が異なっていることを主張し、トラブルに発展する可能性があります。
近年、上記のようなトラブルが増えていることから、厚生労働省では、固定残業代制度による給与については以下の点を適切に表示するよう求めています。
・固定残業代を除いた基本給の額
・固定残業代に関する労働時間数と金額等の計算方法
・固定残業時間を超える時間外労働、休日労働および深夜労働に対して割増賃金を追加で支払う旨
引用:厚生労働省リーフレット、若者の募集・求人の申込みをお考えの事業主の皆さまへ
固定残業代制度による給与については適切に表示し、求職者が賃金について誤解しないよう配慮が必要です。
固定残業代の計算
ここからは固定残業代の計算方法として、手当型と組込型の2種類の計算方法について、具体的な計算例とともに紹介します。
手当型の固定残業代の計算方法
手当型の固定残業代は、基本給と固定残業代を分けて考えます。
次の条件を元に計算してみます。
固定残業代=(給与総額÷月平均所定労働時間)×固定残業時間×1.25(割増率)
会社で規定している所定労働時間が1日8時間、週40時間の場合、月平均所定労働時間の算出は次の通りとなります。
月平均所定労働時間=40時間÷7日×365日÷12カ月=173.8時間
たとえば、1ヵ月の給与総額が30万円、月平均所定労働時間が173.8時間、固定残業時間20時間だった場合の固定残業代は次の通りとなります。
固定残業代=30万円÷173.8時間×20時間×1.25=43,153円が固定残業代となります。
なお、上記は割増率を最低ラインである1.25として計算しましたが、計算の便宜を考慮して固定残業代を微調整することもできます。
上記の例なら、153円を切り上げて、43,500円を固定残業代としても良いでしょう。
この場合、総支給343,500円、内訳は基本給30万円、固定残業代43,500円となります。
組込型の固定残業代の計算方法
組込型では、固定残業代を含めた時間給の計算し、固定時間分の残業代の計算をした後、総額から固定残業代を引いて基本給を調整します。
固定残業代=基本給÷(月平均所定労働時間+固定残業時間×1.25)×固定残業時間×1.25
たとえば、1ヵ月の賃金が基本給30万円、月平均所定労働時間173.8時間・固定残業時間20時間の社員の固定残業代は、以下の通りとなります。
固定残業代=300,000÷{173.8+(20×1.25)}×20×1.25=37,726
上記の組込型の場合、固定残業代は37,726円となります。
この場合、総支給30万円、内訳として基本給300,000円(その内、固定残業代37,726円)となります。
組込型については、固定残業代に相当する部分とそれ以外の部分を明確に区分しないと否認されるリスクがあります。
さらに、給与計算する場合、組込型は固定残業代が基本給に含まれていることから、固定残業代に相当する賃金と超過残業代の賃金との区別が手当型に比べて困難なため、給与計算ミスを誘発しやすいデメリットもあり、組込型は推奨しておりません。
まとめ
あらかじめ一定時間の残業代を固定する固定残業代は、人件費の把握が容易になることや無駄な時間外労働の抑制につながるというメリットがありますが、適切に運用しないと固定残業代が否認され、固定残業代も含めて未払い残業代を請求されるケースもあるため、正しく運用することが必要です。
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