「辞めたバイト先から源泉徴収票が届かない」 「年収103万円以下でも発行してもらえるの?」 「新卒入社先から提出を求められたが、手元にない」
こうした源泉徴収票にまつわる悩みは、多くのアルバイト・パートの方が直面する問題です。特に、退職後に連絡を取りづらかったり、年収が少なかったりすると、請求してよいものか迷うこともあるでしょう。
結論からお伝えすると、源泉徴収票の発行は雇用形態(アルバイト・パート)や年収額(103万円以下か)、勤務期間(短期か)に関わらず、会社(給与支払者)が果たすべき『法律上の義務』です。
この記事では、源泉徴収票が「なぜ必要なのか」「いつ届くのか」、そして「もらえない時にどう法的に対処すべきか」を徹底解説します。
- なぜ源泉徴収票の発行が「法律上の義務」なのか(103万円以下でも必要な理由)
- 法律で定められた、源泉徴収票がもらえる正確なタイミング
- 「もらえない」「ない」場合の、具体的かつ法的な対処法
- 「掛け持ち」や「新卒」の際に、源泉徴収票が絶対に必要となる理由
そもそも源泉徴収票とは?アルバイトでも発行される?


源泉徴収票(正式名称:給与所得の源泉徴収票)とは、会社(給与支払者)が従業員(給与所得者)に対し、「その年の1月1日から12月31日までに、どれだけの給与・賞与を支払い、どれだけの所得税を徴収したか」を証明する公的な書類です 。
源泉徴収票には、主に以下の情報が記載されています。
- 支払金額: 年収(総支給額)
- 給与所得控除後の金額: 手取りではなく、税計算上の金額
- 所得控除の額の合計額: 基礎控除や社会保険料などの合計
- 源泉徴収税額: 天引きされた所得税の合計
仮に税額が「0円」であっても、「支払金額」が証明されなければ公的な手続きができないため、非常に重要な書類です。
アルバイト・パートでも発行は「法律上の義務」


源泉徴収票の発行は、会社のサービスではありません。所得税法第226条で定められた絶対的な義務です。
法律は「正社員」と「アルバイト」を区別していません。「給与」を支払うすべての会社は、受け取るすべての人に対して発行しなければなりません。
「年収103万円以下」や「短期バイト」でも発行義務はある
よくある誤解が「103万円以下で税金を払っていないから、もらえない」というものですが、これは間違いです。会社は、税金が0円(非課税)であっても発行しなければなりません。その場合、源泉徴収票の「源泉徴収税額」の欄には「0円」と記載されます。
ではなぜ0円でも発行が必要なのでしょうか?
それは、源泉徴収票の役割が「税金を納めた証拠」であると同時に、「年間の総収入額を証明する証拠」でもあるからです。例えば、 それは、以下のような場面で「収入額(103万円以下であること)」の証明が必要になるからです。
- 家族の扶養に入る(配偶者控除や扶養控除)ための収入証明
- 市区町村への「非課税証明書」発行申請
- 転職先・就職先への「前職調査」や年末調整
したがって、「短期だから」「稼ぎが少ないから」といって発行を拒むことは違法です。
源泉徴収票はいつもらえる?発行タイミングを解説
「いつ届くのか」は、あなたが退職した時期によって法律上の期限が異なります。
1. 年の途中で退職した場合:「退職の日以後1ヶ月以内」
最もトラブルになりやすいケースです。 年の途中(例:5月)に退職した場合、会社は「退職の日から1ヶ月以内」(例:6月まで)に発行する義務があります。
「辞めた人も含めて翌年1月にまとめて送ります」という会社の対応は、法律違反です。速やかな発行を求めましょう。
所得税法(第226条)および関連する施行令に、年の途中で退職した人に対しては、「その退職の日以後1ヶ月以内」に源泉徴収票を交付しなければならない、と定められています 。
例えば、あなたが5月20日にアルバイトを退職した場合、会社は法律上、6月20日までにあなたに源泉徴収票を交付(郵送など)する義務があります。
2. 年末まで在籍した場合:「翌年の1月31日まで」
12月31日時点で在籍し、年末調整を受けた場合は、「翌年の1月31日まで」に交付されます。
これは、会社が12月分の給与で年末調整の計算を確定させ、税務署へ提出する「法定調書合計表」などの関連書類の提出期限が、同じく翌年1月31日となっているためです。
通常、12月または翌年1月の給与明細と一緒に交付されることが多いです。
【最重要】源泉徴収票がもらえない・ない場合の対処法
「頼んでも送ってくれない」「連絡がつかない」など、そのような場合に取るべき具体的かつ法的な手順を、ステップバイステップで解説します。
Step 1:まずはバイト先に発行を依頼する(電話・メール)
単なる事務ミスや、住所変更の伝達漏れの可能性もあります。まずは会社(店長や経理担当)に連絡しましょう。
その際、「言った・言わない」を防ぐため、メールなどの記録に残る方法で依頼することをお勧めします。
この依頼をしてもなお、「発行できない」「忙しい」「後で送る」と言われたまま何か月も放置される、あるいは完全に無視される場合は、次のステップに進みます。
Step 2:【最終手段】税務署に「源泉徴収票不交付の届出書」を提出する
会社に催促しても無視される場合、最強の切り札を使います。 所轄の税務署に「源泉徴収票不交付の届出書」を提出してください。
これは、多くの人が知らない「最後の切り札」とも言える法的な手続きです。
「源泉徴収票不交付の届出書」とは?


出典:源泉徴収票不交付の届出書
この書類は、「給与支払者(会社)が法律上の義務(所得税法第226条)を果たさず、源泉徴収票を交付してくれません」と、税務署(国税庁)に正式に申し立てる(通報する)ための書類です。
提出するとどうなる?
この届出書が税務署に受理されると、税務署からその会社(事業主)に対して、「なぜ法律で義務付けられた書類を交付しないのか」という行政指導が入ります 。
あなたが個人でいくら催促しても動かなかった会社も、税務署から直接指導が入れば、通常は即座に対応せざるを得ません。これは、個人間のトラブルではなく、国に対する法令遵守の問題へと格上げされるため、非常に強力な効果があります。
提出の手続き(具体的な手順)
国税庁のウェブサイトから「源泉徴収票不交付の届出書」のPDF様式をダウンロードします。または、最寄りの税務署の窓口でもらえます。
- あなたの氏名、住所、電話番号
- 給与支払者(アルバイト先)の氏名(会社名)、所在地、電話番号(分かる範囲で)
- 「不交付の源泉徴収票に係る事項」:
- 「年分」:必要とする年(例:令和5年分)
- 「収入金額」:その年にもらった給与の合計額
- 「源泉徴収税額」:天引きされた所得税の合計額
- これらの金額が不明な場合は、添付する給与明細書から合計額を計算して記入します。
- この届出書を提出する際、「給与明細書の写し(コピー)」を添付することが必須となります。
- 給与明細書は、あなたがその会社から「いくら給与をもらい」「いくら税金を引かれたか」を証明する唯一の証拠です。
- 届出書の様式にも「給与明細書の保存(有・無)」をチェックする欄があります。日頃から給与明細書を必ず保管しておくことが、いかに重要かがわかります。
あなたの住所地(納税地)を管轄する税務署に、持参または郵送で提出します
※「源泉徴収票不交付の届出書」のダウンロードはこちらから
紛失した場合は「再発行」を依頼しよう
「もらえない(不交付)」と「なくした(紛失)」は、法的に全く異なる状況です。
一度会社から源泉徴収票を受け取っている場合で、あなた自身が紛失してしまったときには「再発行」を依頼することになります。
この場合、会社は「不交付」の状態ではないため、前述の 「源泉徴収票不交付の届出書」は使用できません。
アルバイト先の担当者に「源泉徴収票を紛失してしまったので、再発行をお願いします」と連絡すれば大丈夫です。
会社には給与台帳などの帳簿を7年間保存する義務があるため、必要なデータは残っています。再発行についての明確な義務までは法律に定められていませんが、通常、法令を遵守している企業であれば再発行に応じてくれます。
なぜ必要?源泉徴収票が必要になる主なケース
「年収103万円以下で税金も0円なのに、なぜそこまでして源泉徴収票が必要なの?」と疑問に思うかもしれません。源泉徴収票は、あなたの「年間の正確な給与所得」を証明する唯一の公的な書類であり、以下のケースで必ず必要になります。
ケース1:アルバイトを掛け持ちしている(確定申告のため)
2ヶ所以上で働いている場合、メイン以外のバイト先では年末調整が行われません。 そのため、すべての源泉徴収票を集めて、自分で「確定申告」をする必要があります。これをしないと、税金の払いすぎ(特に乙欄適用者)や、申告漏れになるリスクがあります。
ケース2:新卒・転職で新しい会社に提出する(年末調整のため)
年の途中で就職・転職した場合、新しい会社は「前のバイト代」と「今の会社の給与」を合算して年末調整を行います。
源泉徴収票を提出しないと、正しい税計算ができず、あなたが後で追徴課税を受ける恐れがあります。これは会社のためではなく、あなた自身を守るための手続きです。
ケース3:医療費控除やふるさと納税などで確定申告をする
アルバイト先が1ヶ所だけで、年末調整も完了している場合でも、あなた自身が確定申告(還付申告)をすることで、税金が戻ってくるケースがあります。
- 年間の医療費が10万円(または所得の5%)を超えた(医療費控除)
- ふるさと納税を行った(ワンストップ特例を使わない場合)
- 住宅ローン控除を初めて受ける(1年目)
- 特定の寄付を行った(寄付金控除)
これらの確定申告を行う際、確定申告書を作成する大前提として、あなたの年間の総収入(支払金額)と納めた税額(源泉徴収税額)を申告書に記入する必要があります。
【給与のプロが回答】源泉徴収票のよくある質問 (FAQ)
Q1. 会社が源泉徴収票を発行しないとどうなる?(企業向け)
A. 法律違反として罰則の対象になります。 所得税法第242条により「1年以下の懲役または50万円以下の罰金」が科される可能性があります。また、税務署からの行政指導により企業の社会的信用を失うリスクもあります。
特に、退職したアルバイト従業員への対応は、管理が煩雑になるため後回しにされがちですが、法的なリスクは正社員と全く同じです。
Q2. 掛け持ちで「乙欄」で源泉徴収されていますが?
A. 税金を払いすぎている可能性が高いです。 「乙欄(おつらん)」とは、扶養控除等申告書を出していない(サブの)勤務先で適用される高い税率です。 源泉徴収票をもらって確定申告をすれば、多くの場合、払いすぎた税金が還付金として戻ってきます。
Q3. 確定申告の時期に源泉徴収票が間に合わない場合は?
A. 待たずに税務署へ相談してください。 申告期限(通常3月15日)ギリギリまで待つのは危険です。まずは税務署に電話し、「会社から交付されない」旨を相談しましょう。前述の「不交付の届出」を案内されるケースが多いです。
まとめ
この記事では源泉徴収票に関するポイントを解説しました。
記事のまとめ
- 発行は義務: アルバイト・短期・103万円以下に関わらず、必ずもらえます。
- 期限: 退職者は「1ヶ月以内」、在籍者は「翌年1月末まで」。
- 対処法: もらえない時は、給与明細を持って税務署へ「不交付の届出」を。
- 必要性: 掛け持ちの確定申告や、新卒入社時の年末調整で絶対に必要です。
従業員の方にとって、源泉徴収票は自らの収入を証明し、払いすぎた税金を取り戻すための「権利証」とも言える書類です。
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